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Aiレポート

東三河、民話と伝承の旅。 ─名越神楽と自家製どぶろく─
ゆみこ

JR飯田線三河槇原駅の無人ホームを下りると、聞き慣れない鳥たちの声。見慣れない木々、花々。そして眼下には川、仰げば山。3月20日、わたしは新城市にある「愛知県民の森」を訪れました。所属している「日本民話の会」で奥三河の旅をすることになったのです。美しい場所でした。今回のレポートは、この旅の目玉の1つである名越神楽(なこえかぐら)について書くことにします。(Aiレポーター ゆみこ)
18時、広い宴会場に現れたのは青い衣装を着た男性10名ほど。名越神楽の保存会の方々です。彼らが太鼓や笛、三味線などそれぞれの持ち場に着くと、場の空気は芸能が行われる舞台独特の張りを帯びました。テンテケと太鼓が鳴り、三味線が響き、語りが我々を誘うと、いよいよ主役の獅子が登場。この日観た『くずの葉子別れ』では、獅子がほとんど一人で舞い続けます。
物語は以下のようなもの。  妻と死別した阿部保名 (あべのやすな)という武将は、妻と瓜二つの娘「葛の葉」に恋し、いずれ二人の間に愛情が芽生えた。さてある日、狐狩りに追われた白狐を助けた保名だが、狐狩り共と戦って負傷した。この騒動から逃げ去った葛の葉だが、ある日再び現れて保名を介抱した。しかしこの葛の葉、正体は助けられた白狐。保名はその女と6年も阿倍野に隠れ住み、今では5歳の子どもと暮らしている。  しかし保名を慕って止まない葛の葉は、ついに阿倍野へ尋ねてきた。保名も驚いたが、それにもまして驚き悲しんだのは子どもの母になった白狐だった。もはや葛の葉の姿を借りているわけにはいかない。白狐は、眠っている子どもに名残を惜しみつつ、五言絶句一遍と和歌一首を障子に書き残して姿を消した。





登場人物は保名と葛の葉、それから白狐。男、女、獣という役所を、一人の演者が獅子をかぶったまま所作だけで演じ分け、さらに口でくわえた筆で大きな漢詩の書を仕上げます。まさに妙技。圧巻でした。


神楽の語源は、“神の宿るところ”という意味の「神座(かむくら・かみくら)」で、今では神を祭るために音楽をしたり舞踏をしたりすることを言います。神楽の中でも宮中で行われるのが御神楽、民間で行われるのが里神楽。里神楽は日本各地に残っていますが、地元有志の方々が代々継承してきた名越神楽は古い歴史を持ち、市の無形民俗文化財に指定されているそうです。  
鑑賞後、演者の方々と歓談する時間がありました。興味深いお話をいろいろ伺う中で、この伝統芸能は名越という地区に深く長く息づいてきたということを知りました。
名越という地区は、自分の地元でいうと大字ということになるのでしょうが、大字にも町にも、こんなふうに脈々と受け継がれているものは思い当たりません。名越の人たちには、わたしにはうっすらとしかない地域的自意識がしっかりと受け継がれていたのです。自分の地域的自意識の低さを思い知らされたような気がしました。  
戦後、急速に情報の共有化が進み、文化や価値観が画一化されてゆくなかで、アイデンティティを持ち続けることができた地域とそうでない地域の差は一体どこにあるのか。わたしは、それを考えずにはいられませんでした。名越のように、すばらしい伝統文化を守り続けてきた地域には、ぜひこれからもそれを伝承してほしいと思います。それは自分のルーツを知ることであり、表現することであり、他者を知ることにもつながります。また、わたしたちだって、失ってしまったものを取り戻すことはできないけれど、これから生み出すことや守ることはできるはずです。社会の情報化、国際化は、そういう地道なものの上にこそ成り立つものだと思うのです。  
さて、もう1つ印象的だったのが、地元の方が振る舞ってくださった自家製どぶろく。東海地方は自然にも商業にも恵まれて、江戸時代には案外酒造りが盛んだったそうです。この夜いただいたものはさっぱりとして飲みやすく、下戸のわたしも飲んじゃいました、酔っちゃいました。ごちそうさまでした。


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